雑文のネタとして、他人との会話を使うことがよくあります。ほとんどの場合は記憶の底から引っ張り出して書いているのですが、困ったことが一つあります。
「方言の扱いをどうしよう」
九州で生まれ、九州で育った私の周りの会話は、大部分が九州弁で構成されています。全部ひっくるめて「九州弁」と表現しましたが、九州各地でも様々な方言があります。例えば、熊本県北部で暮らしていた私には、熊本県南部で暮らす父方の親戚の会話の大部分が理解不能です。母も、妹達も理解できません。父という通訳を介してやっと会話が成立します。私の言葉が九州の中で「何弁」に属するのか分かりませんが、日常使っている言葉をそのまま書くことはせずに、なるべく標準語(と思っている言葉)に変換して書くようにしています。
日常の会話が方言で構成されていると、その会話を標準語に変換した時に物凄い違和感があります。たとえば、以前勧誘電話について書いた文の中ではこのような表現があります。
「昔の知り合いとか言って、電話番号を聞き出そうとするのよ」
「なんか、学校は違うけど友達だったって言うの」
「で、これは怪しいと思って切ったの」
「大丈夫。女の人の声だったから。男ならともかく女なら絶対に違うでしょ」
我ながら無茶苦茶な変換をやったものだと思います。いくら標準語に変換するのが大変だったとはいえ、これでは私の母が品のいい女性だと思われてしまいます。ちなみに、記憶に残っている本来の会話は以下のようなものです。
「昔の知り合いとか言って、電話番号ば聞き出そうてするとよ」
「なんか、学校は違うけど友達やったって言うと」
「やけん、これは怪しいと思って切ったと」
「大丈夫。女の人の声やったけん。男ならともかく女なら絶対に違うやろ」
お、かなり実物に近づいてきました。しかし、これでもまだ実際の会話とはどこかが違う気がします。会話じゃなくて文章だからでしょうか。しばらく考えて、ある結論に達しました。
「これじゃ、キャプテン翼の次藤君じゃないか」
ご存知ない方がいらっしゃるかもしれないので簡単に説明しますと、「キャプテン翼」というサッカー漫画において「次藤」という九州出身の選手がいたんです。で、こいつの特徴が「台詞の最期に『タイ』と付ける」。劇中では「やっタイ」(おそらく『やった』の意)という迷言を吐いたらしいキャラクターです。ちなみに、こんな言葉は常人は発しません。
もちろん、私が書いている会話は、実際にあった会話なのでインチキ九州弁であるというわけではありません。ですが、どうも次藤君が喋っているような錯覚を起こしてしまいます。おかげで上記の記憶は全て、母との会話ではなく次藤君との会話と入れ替わってしまいました。母=次藤。嫌過ぎタイ。