小さい頃、実家にはパンダがいました。……あ、ウソツキ雑文企画じゃないです。
パンダと言っても、生きているパンダではありません。たぶんワシントン条約あたりにひっかります。何て言うのか分かりませんが、大きい模型みたいなやつでした。中は空洞で発泡スチロールの枠があり、その外側に強化プラスチックか何かでパンダの絵を描いてある、実物を見ずに説明してみたらなかなか奇怪な代物でした。
実家の近くにはちょっとした遊園地があります。パンダはそこで何か催し物があった際に使われ、巡り巡って我が家にたどり着いたのです。どうも親父の知り合いのつてで、貰ってきたか、押し付けられたかのどちらかだと思います。
詳しいことは分かりませんが、子供にとってあれは物凄く珍しい玩具でした。だってパンダですよ。しかもでかい。あぐらをかいて笹を持ち台車に乗っているデザインなのですが、それでも親父よりもでかかったと思います。
我が家に引き取られてしばらくは私達もおそるおそる触れていたのですが、数日したら近所の子供達も寄ってきていました。頭の上に乗ろうとする者、腕にぶら下がる者、首を動かそうとする者(そういうギミックが隠されてました)。遊園地関係者が知らないと思われるところでパンダは遊ばれていました。
同級生の間には、「何故お前の家にはパンダがいるんだ」とも聞かれました。「知らん」としか答えようがありませんでしたが、我が家は「パンダがいる家」として有名になっていました。宅急便なんかに我が家の場所を説明する時も「家の前にパンダがいます」という無茶苦茶な説明をしていました。
数年後、私が耳にぶら下がっていてバランスを崩した時に「バキッ」という鈍い音と共に耳が取れちゃいました。びっくりしましたが、「取れちまったものは仕方がない」とも思いました。風雨にさらされて大分脆くなっていたのでしょう。
これが小学校の高学年になるかならないかといった頃でした。これ以降はあまりパンダで遊ぶことはありませんでした。
耐用年数が過ぎていたと思われるパンダは私が気づかないうちにどこかへ行ってしまいました。どこへ行ったのかは知りません。おそらく親父に聞けば分かるのでしょうが、何となく聞きたくないので今まで聞かないまま、分からないままです。中学校に入学する前にはいなかったと思います。
月日が流れ、中学校に入学しました。私の通っていた中学校は2つの小学校の卒業生が通う学校でした。
ある日の給食の時間です。私と違う小学校に通っていた友人が、こんな話をしました。
「そう言えば、あの辺パンダがいる家がなかった?近くを通るたびに『どういう人が住んでるんだろう』と思ってたんだけど」
「……それ、うち」
「……は?」
「パンダがいたのは俺の家だよ」
相手の驚いたこと驚いたこと。そりゃそうでしょう。長い間謎だった家の住人が目の前でと一緒に給食を食ってるんですから。ただ、この影響でそれ以降「パンダが住む家」として中学校でも有名になってしまいました。もういないのに。
それにしても、なぜパンダだったのか、なぜ我が家だったのか。根本的な謎はまったく解決されていません。本当に、あれは何だったんだろう。