むかしむかし、まだこの世の中に「雑文界」と呼ばれる集合が存在していた時代の話。だいたい五、六年位は昔の話でしょうか。当時はまだ雑文書きという生き物が多数存在しておりました。彼らは日々面白い文章を書いては更新していました。が、いつの間にやらその更新ペースは週刊、月刊、季刊といった具合に順調に遅れていました。季刊から年刊になり、さらに数年に一度の更新ペースになり、そして消息を絶った人も少なくありません。一身上の都合とかやむを得ない事情などあるでしょうが、ここは難しい事は考えずに「真人間に戻る事ができた」のであろうと前向きに解釈しましょう。

また、当時は日記書きという人たちも存在していました。こちらは毎日こつこつと日記を書く人たちです。日記用のサービスというのは古くから存在していたために雑文よりも敷居が低かったという点もあるのか、雑文書きよりも人数は多かったと思います。雑文書きは文章を書いてタグを打ち、それをFTPで転送して等と手間のかかることをやらなければいけません。さらにサーバを有料でレンタルしたり、独自ドメインを取得したり、さらには更新時の手間をほんのちょっとだけ省くためにわざわざプログラムまで組んだりした人もいます。ああそうだよ俺だよ、いいんだよ楽しいんだから。それと比べると無料サービスを利用する事によって、書いて送信すれば更新できる日記サイトというのは楽だなあと思います。勿論のめり込む人はわざわざサーバをレンタルしたり独自ドメインを取得したりCGIを組んだりと、そう変わらないくらい手間をかける人もいるでしょうが、少なくとも第一歩の踏み出しやすさは段違いです。どちらが良いかと聞かれたら、勿論敷居が低いほうが良いに決まっています。もし日本に「無料雑文サービス」なんてものが存在していたら、歴史は変わっていたかもしれません。多分変わらないけど。

さて、雑文界が縮小傾向を辿っていた頃、ブログというものが世に出てきました。このブログ、私にとっては当時から、そして現在に至るまで「日記と掲示板とリンク集が混ざった物」という認識です。あと、「絵とかフレームとか多くて読みづらいとこ」とも。世の中に数多あるブログの大半は、縦に三分割できるようなレイアウトとなっています。で、殆どの場合は用事がある、関心があるのはその真ん中の部分。左右に位置する部分は頻繁には使用しないコンテンツです。過去ログへのリンクや運営者のプロフィールなんてものは必要なときにアクセスすれば事足ります。でも毎回読み込んでしまい、結果として受信サイズが大きくなって表示に時間がかかってしまいます。また、左右の表示区域のせいで最も必要な中央部の表示区域が制限されてしまい、閲覧に支障をきたす事もあります。具体的には、お仕事中にこっそりと小さくしたブラウザで覗き見する場合に。

かつて、仕事場で「業務に関係ないサイトの閲覧は禁止」という通達が回ってきました。何年前だったか覚えていないくらい昔です。当時、各種雑文や各種日記は仕事場で閲覧していたわけですが、それが全て禁止されたわけです。いや、見ようと思えば見えない事もないわけですが、なにしろ私の立場は外注という不安定な物です。雇用主の不興をかえば即座に島流しとなりかねません。という理由で当分はおとなしく仕事をするふりをする事にしました。

あれから数年。たぶん監視の目も緩んだんじゃないかな。少なくとも仕事の合間にちょっとくらい脱線しても何かを言われるような気配がなくなりました。よし、今まで読めなかったあれやこれやの雑文や日記を読む事にしよう。

ですが、日記サイトの多くはブログ形式に移行しています。ブログはこう、先述したように盗み見るには不便なのです。ブラウザを横に広く表示しないといけないし、また一般的に画像が多めなのも難点です。では雑文サイトは。こっちはこっちで「更新されて無い」とか「消滅した」という理由で読むに読めなくなっています。いつの間にやら時代が移り変わり、後発として開設したこのサイトですら数少ない生き残りとしてカウントされる始末です。まあそれはともかく、古くより大量の文章が置いてあり私が読みかけのままであったサイトで続きを読もうとしたわけです。別にサイト名を隠す必要もないわけですが、「大西科学」にて文章一覧のページを開いたところで手が止まりました。私が読みかけて放置したのはもう何年も昔の事。何年前だか覚えていないので、いったいどこまで読んだのか覚えていないのです。だいたいこの辺じゃないかなあという気はするのですが、それより前を読んだようなそうでもないような、それより後も読んだようなそうでもないような。じゃあもうちょっと昔の分から読もうとすると、いやこれは読んだなあ。新しい方に行くと、いやそりゃ読んでないのばっかりだよなあ。全く読まなかったわけではなくたまにつまみ食いしていたのでなお分かりません。

まあいいや。読むものがあるという事は決して困る事ではありません。むしろ、嬉しい事です。さあ、残り三百だか四百だかよくわからんが一心不乱に読みふけって、あ、いや、さぼってなんか、え、次のプロジェクト、はい、もうすぐ開始、ええ、はい。


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