ある日、自宅のテーブルに一枚の紙切れが置いてありました。近所の市民センターで映画の上映会が開催されるようで、その割引券だそうです。そういえば私が子供の頃もこういう催し物があったなあと思いました。たしか当時は劇場版ドラえもんの映画で二時間ほど。費用は忘れました。で、手元にある割引券は大人も子供もお一人様八百円、二時間で豪華六本立てです。って、二時間で六本?
二時間という事は百二十分です。それを単純に六で割ったら一つ当たり二十分。アニメの劇場版作品というと一時間くらいが相場だと思うのですが、その半分にもなりません。ダイジェスト版とかでしょうか。そういう業者専用に、特別に編集してあるバージョンが存在するとか。
不安な点はまだあります。「豪華六本立て」の内訳です。全てアニメというのはいいのです。
まずはドラゴンボール。全く問題ありません。最近もCSで放映中です。息子達も大好きです。オープニング曲が流れると一緒に歌っています。
次にちびまる子ちゃん。こちらも問題ありません。サザエさんの露払いを務める日曜夕方の大物です。
アンパンマンとかいけつゾロリ。なるほど、ちょっと低年齢向けの作品も混ぜておいたほうが敷居が低くなります。
ゲゲゲの鬼太郎。まあ、夏ですからね。最近もアニメの新作とか実写版とかありますから問題ありません。
北斗の拳。いやちょっと待ちたまえ。なんでお前そこに混ざってる。
そりゃ確かに近年パチンコ業界でスマッシュヒットとか、新作対戦格闘ゲームが発売されたりとかありましたが、本件の顧客層である小学校低学年から未就学児には全く関係ないでしょう。パチンコ関係には疎いんで詳しい事は知りませんが、格ゲーの方は分かります。一言で言えば「クソゲー」、愛のある言い方をすれば「世紀末スポーツゲーム」という、少なくとも一般受けはしなかったゲームです。「一周周って逆に味が出たクソゲー」とか言われたゲームです。使用可能キャラの大半が即死コンボ持ちとか、キャラ性能に差がありすぎるとか、ひたすら攻撃を当て続けるとそのうち相手が大きくバウンドするようになってまるでバスケットのドリブルのようになるとか、そんな駄目なゲームです。私もついうっかり妙な方向にアンテナを伸ばしたばっかりにその魅力にとりつかれてしまいましたが、普通の小学生はそんなものに関心は持ちません。
嫌な予感はあったのですが、長男が行く気満々です。次男は出不精なんでお留守番です。そんなわけで二人でお出かけ。駐車場を探すのに手間取ってしまい到着時にはもう上映開始のブザーが鳴っていました。逸る長男を宥め、入場料を払っていると聴きなれたテーマ曲が聞こえてきます。最初に上映されるのは北斗の拳。最も気になる作品です。てーれってーという歌を聴きながら適当に席を探して座ると、ちょうどオープニング曲が終わる頃でした。曲が終わり、それまでのあらすじが流れ、タイトルが出て、って、これはおい、アニメの本放映そのままじゃないか。「悲しき聖帝サウザー! お前は愛につかれている!!」ってタイトルを出されても、サウザーって誰やねんとか、それ以前にケンシロウって誰やねんとか子供達は思ってるんじゃないでしょうか。ちなみに、タイトルは暗記していたわけではなく検索結果をそのまんまコピーしただけです。Wikipediaって便利ですね。便利ついでにコピーすると、放映日は1986年の三月、って事は二十年前のものです。二十年前はこんな血がドバドバでるようなもんが平気で放映されていたんですね。実のところ、私は単行本では全冊読破しているものの、アニメ版を見るのは初めてなのです。
さて、開始早々向こう二時間の展開がある程度予想できました。つまり、テレビで放映されたものをそのまま、CMカット程度の編集をして上映しているようです。そう考えると、上映予定の六作品はどれも地上波で週一ペースで放映されていたものです。あとの関心はいったいどの話が上映されるのか、という点です。しかしそうなると気になるのはかいけつゾロリの扱い。アニメ版のゾロリはここ数年のものです。わざわざこれだけ近年の作品にするのだろうかと思いましたが、予想外の展開が待っていました。
北斗の拳の次に上映されたちびまる子ちゃんに関しては、特に何も。あれはサザエさん同様時間経過を無視できる世界を描いているので、十年前の映像だろうが二十年前の映像だろうがあまり関係ありません。次が問題のかいけつゾロリです。昭和末期、平成初期ときて、いきなり二十一世紀かと思ったのですが、スクリーンに映し出されたのはやたら昭和テイスト溢れる映像。いや確かに動いている、そして喋っているキャラはゾロリなのですが、以前子供たちが借りてきたDVDのキャラとはなんか違うんです。帰宅後に調べたのですが、どうも八十年代末頃にアニメが作成されたもののいまいち評判が悪かったとか。『1990年にも作成されたけど発売中止』とあったのですが、私が見たのはその発売中止になった話のようなのですが。一般市場には回らなかったという事でしょうか。しかしまあ、現物を見てみると売れなかったのも納得と言いますか、低予算が見てとれる素晴らしい映像でした。よくもまあ、改めてアニメ化する気になったな、と。
休憩を挟んでからドラゴンボールの番です。ドラゴンボール大好きっ子の長男は、まさにこのために来ているのです。オープニング曲も歌う気満々です。で、流れてくるのは初期のオープニング曲。所謂『Z』が付かない頃のものです。「昔のほうの曲はあまり知らないから歌えなかった」とか長男が文句を言っています。文句を言いながらも小声で歌っていたようなのですが。で、上映されたのは初期も初期。亀仙人初登場の会です。入場券には終盤の登場キャラである悟天とトランクスの絵が描いてあったはずですが、上映されたのはかめはめ波も撃てない時代の話です。ジャン拳とか使ってます。これもこれで長男が「騙された」と怒っています。でもおとなしく見てました。
で、五番目はアンパンマン。放映開始が二十年前なので初期の話のどれかと予想していたのですが大外れです。調べてみると三十年前にもアニメ版が製作されていたらしく、おそらくそれが上映されたのでしょう。アンパンマンが一頭身半くらいに圧縮されているとか、ジャムおじさんにため口とか、いろいろ気になる部分もありますがあまり気にしないことにします。予想が当たったのは最後の鬼太郎くらいでした。私が小学生くらいの頃に見ていたような絵がそのまま上映されていました。ちょうど前日に実写版がテレビで放映されていたのですが、「昔のアニメの方でいいじゃん」とか思ってしまうのは多分私が年をとったからだと思います。
さて、これで六本二時間がおしまいです。子供達はともかく、付き添いの保護者各位はお疲れ様です。私も私で椅子が合わなかったようで現在腰痛に襲われています。身体に合わない椅子に二時間拘束というのは、年をとった私の腰には耐えられなかったようです。長男が楽しんでくれてたらまだいいのですが、はたしてどうなのでしょうか。「面白くなかった」と言われてもおかしくないんで聞くに聞けません。それにしてもこの業者、こんな二十年位前の品揃えでいつまで頑張るのでしょうか。