一般的に、妊娠した女性は酸っぱい物を好むといわれています。漫画なんかの記号的表現だと、妊娠した女性は「昼に同僚や級友とお弁当を食べてたら急に吐き気に襲われて便所へダッシュ、そういえば来るものが来てないと気付く」とか、「無性に酸っぱい物を好む」となっています。いつからの伝統かは知りません。

さて、その妊娠出産を二度ほど経験した我が相方。これが根っからの「酸っぱい物嫌い」だった訳でして、その好みが妊娠によってどう変わるかというのはちょっと興味がありました。やはり酸っぱい物を好むようになるのだろうか、と。ですが、実際にどうだったかというと食の嗜好は変わらず。妊娠しようが出産しようが嫌いなものは嫌い、という結論でした。個人差って大きいんですね。

しかし、私は困りました。せっかく、酸っぱい物を好きになってもらうチャンスだったのに。私は酸っぱい物が好きなのに、このままじゃ食卓に酸っぱい物が上らなくなってしまう、と。梅干すらも拒否されるのですから、キュウリとワカメの三杯酢和えなんてもってのほかです。いや、作ってくれないこともないのですが、味見してくれないんで味にムラがあるんです。向こうにしてみれば「作ってあるだけ感謝しろ」ですし、こちらにしてみれば「作ってあるだけありがたい」んですけど。

その、私だけが食べていた「酸っぱい物」ですが、最近強力なライバルが現れてきました。とある週末の食卓での出来事です。夕食の時間、私はもきゅもきゅと酢の物を食べておりました。その私の手元をじっと見つめる目が。横にいた次男でした。

その昔、長男が二歳くらいのころにも同じように酢の物に興味を持った事がありまして、実際に食べさせてみたことがあります。結果はというと、しかめっ面でキュウリを吐き出しました。ただ、彼の場合は昆布の佃煮ですら「酸っぱい」と言って食べないくらいですから、いきなり酢の物というのはちょっとハードルが高すぎたのかもしれません。

そんな事を思い出しながら、次男の口元にもキュウリを持っていってみました。きっと無駄になるんだろうな、と思いながら。しかし、その予想を覆しお代わりを催促してきます。一口だけだったからまだ酸っぱさを実感できていないのだろうと思い、再度口元にキュウリを近づけてみましたが、あっさりと、パクッと、容赦なく食べられてしまいました。しかも、さらに次を要求してきます。もはやわんこ酢の物です。結局、この日は楽しみに取っておいた酢の物の半分以上を持っていかれる羽目になってしまいました。

同好の士が増えたことを喜ぶべきか、はたまた分け前が減っていくであろう事を悲しむべきか。どちらでも構いませんが、多少なりとも食卓に酸っぱいものが並ぶことが増えそうであると考えると喜ぶべきなんでしょう。その酸っぱいものを笑顔でもきゅもきゅと食べる我々を怪訝な顔で眺める相方と長男は置いといて。ほら、そこ。嫌そうな顔で見ない。


トップ 一覧 前の雑文 次の雑文