サプライズ。「驚く事。驚き」という意味です。相手を喜ばせる、驚かせる、意表を突く。そんな意味もあります。そう考えると奇襲とか不意打ちとか、なんか物騒な意味も持ってそうです。まあ、「サプライズド アタック」で奇襲攻撃という意味もあるらしいので、さほど間違ってはいないのかもしれませんが。なんか「主として核兵器による」なんていう物騒な前置きがあったようにも思えますがたぶん気のせいです。
相手を驚かせるためには、まずその意図を相手に知られてはいけません。バレバレの奇襲は相手に察知されて待ち伏せされ「おのれ孔明」となってしまいますし、逆に相手に察知されなければ不意打ち成功で「ジャーンジャーンジャーン」「げえっ、孔明」となります。孫子に曰く、「戦いは奇をもって勝つ」です。いやだからそんな物騒な話にしなくてもいいんだって。
私もどちらかというと相手の不意を突くような事を好んでやります。その辺がはっきり出るのが対人ゲーム類、特にカードゲームなんかですね。いかに相手の意図を妨害するか。そのタイミングをいかに相手に知られないか。もしくは、いかに相手にタイミングを誤認識させるか。相手が私の意図を察知して対応する、そこまでが私の意図であり織り込み済みであり全部まとめてパックンチョ。「裏の裏のそのまた裏」というやつです。こちらとしては正面からのがっぷり四つではなく「相手の横っ腹をぶん殴る」というのが理想です。だーかーらー。物騒なのはいかんと言うとるのに。
ただ、奇襲というものはいつでもできるとは限りません。むしろできない事の方が多いのです。準備万端整えて、それでようやく一矢報いる事ができるのに、準備が整わなかったり、相手の方が早く準備できていたり。そういう状況では手札は使えない、という事で口三味線、所謂「ブラフ」が使われます。もっと分かりやすく言うと「ハッタリ」でしょうか。手が揃ってない、準備が整っていない。そんな状況で相手の進行を妨げるために、対応策を持っていると思わせたり。ただ、往々にしてバレるんですよね。誰でもアカギのようにはなれないのです。十年間も麻雀を続けられはしないのです。
さて、先日妹の結婚式に出席しました。不出来な兄である私が式も何もなくさっくり結婚してしまったせいで、私の兄妹たちの中では初の結婚式になります。勿論、両親にとっても初の「花嫁の両親」という大役が待っています。実家には結婚情報誌の「花嫁の両親用別冊」なんてものが置いてありました。どういう準備がいるだとか、当日はこういう手順で進むとか。ちなみに「花嫁のお兄さん用別冊」はないらしいです。「サプライズで感動的な挨拶を準備しておきましょう」とか、書く事はあるはずです。差別です。けしからん。
蚊帳の外の兄はさておき、花嫁本人は忙しかったようです。そうだよね。旦那の人は直前まで長期出張で不在だし、本人も多分ドレスの準備だの式次第の準備だのでやらなきゃいけない事は山ほどあるだろうし。だから、我が家の宿の手配が直前も直前、式の三日前にやっと決まったのも仕方ない事なのでしょう。ゲストを優先するとなると兄の家族が後回しになるのは当然です。仕方ありません。仕方ないと思っていました。当日までは。
披露宴はオリジナルのストップモーションアニメで幕を開けました。ストップモーションアニメって、あれですよ。人形をちょっとずつ動かして一コマずつ撮影し、それを全部つなげて動画にしたものです。最近の結婚式というものは映像関係は非常に凝ったものが多くあり、例えば披露宴の終わりには当日撮影した写真を取り込んだスタッフロールのようなエンディングが流れる事も珍しくありません。写真を随時取り込んで一本の映像を作成する。おそらく定番のフォーマットがあり、それに当てはめれば何度でも使いまわしできるのでしょう。でも、始めて見るとあれはあれで感動します。
ストップモーションアニメもそうでしょう。アニメの内容は、新郎新婦が家を建て、そしてついでに「HAPPY WEDDING」なんて看板も建てるものです。「結婚式」と「家を建てる」というのは、なかなか相性のいい題材です。また、私の実家が建設業である事、そして旦那の人の仕事がまた建設業である事も、アニメに意味を持たせてくれました。こう、「夫婦仲良く、家も建ててね」という感じで。セットプランの一部として使われるアニメにしてはなかなかいい具合にはまっているなと思いました。
「完全自作」なんだそうです。披露宴終了後に聞いたところによると、数ヶ月の製作期間を費やして花嫁である妹が自分で全部作ったんだそうです。なるほど、そりゃ忙しいよね。忙しいのは分かるけど、お前それは力の入れ所を間違っているだろう、と。驚かせたいのは分かるけど、それは費用対効果が悪すぎるだろう。
式中の一幕に関しても一言言いたいのです。「結婚情報誌花嫁のお兄さん用別冊」がなかったもんで、自由気ままに相手方の親族にご挨拶していたところ、なんか司会が私を呼んでいます。いや、最初は全然気づかなかったんですけどね。スピーカーからは「花嫁のお兄さん」とか聞こえてくるし、みんな俺の方見てるし。あれおかしいどういう事だと、とりあえず呼ばれた方に向かってみると、「お色直しのために退場する花嫁をエスコートする役」が準備されていたそうで。
サプライズだそうです。普通これ花嫁の母がやるよね。
ついでに「新郎新婦に一言メッセージ」も欲しいんだそうな。
サプライズだそうです。そうだね、ついでに一言メッセージって定番だね。いやまあサプライズはいいんだけどさあ、せめてこう「ひょっとしたら一言挨拶する内容くらい考えといたらいいかもよ」くらいこっそり教えてくれたっていいじゃないか。私が見事に固まってしまった様子を見て、それから挨拶に回った人からはことごとく「本当にサプライズだったんですね」と言われる始末。サプライズです。奇襲です。横っ腹をどかーんです。
この時は本当に動揺していたんでろくに考えもせずに頭に浮かんだ無難なあいさつで片付けましたが、改めて一言メッセージを送るとすれば。
「サプライズもいいけど、横綱相撲できるようになろうよ」
私も不意打ちとか好きですけどね。でもそういう立ち回りしかできないといろいろ大変なんだよ。お色直しは母が手を引くとかさ、オープニングはあり合わせで済ませるとかさ。じゃないと、驚きっぱなしだと俺とか旦那さんとか寿命が縮みまくるよ。