かれこれ二十年近く昔。ある年の正月の事でした。

当時の我が家にはゲーム機はありませんでした。同級生や近所の友人宅の殆どには、ファミコンがあるのに。なかなか買ってもらえず、既におねだりする事も諦めていたその時、母が言いました。
「三人のお年玉を合わせてファミコンを買っていいよ」
天の声です。我が耳を疑い、その後狂喜乱舞したのは言うまでもありません。それまでは大部分を搾取されていたお年玉。そのお年玉で、あのファミコンを買う事ができるなんて。

全会一致で可決です。その次の週末に購入し、ついに「ファミコンがある家」の仲間入りです。親との取り決めで「ゲームは一日に三十分まで」となりましたが、まあその辺はいろいろと抜け道もあったんでどうにでもなりました。問題は、「妹も出資したんで、一人で占拠できない」事です。ドラクエやりたいのに一緒にマリオをやらなければいけない。マリオをやるにしても、先に進みたいのにミニゲームに付き合わされる。苦痛でしたが、妹達があまりゲームに興味を示さなくなる事で徐々に解消されました。興味を示さないんじゃなくて兄を哀れんだのかもしれませんが、まあその辺は気にしません。

時は流れて二十一世紀。二年ほど前の話です。当時の我が家にて主に稼動していたゲーム機はゲームボーイ。特にポケモン関係のゲームです。スーファミだのプレステだのといった据え置き型のゲーム機は、故障したり実家に置いてきたりで手元にはありませんでした。友人に「プレステ2を所有した事が無い」と言うと「信じられない」と返されるようなゲームっ子の私が、です。そんな私に、母がこんな事を言いました。「DSと脳トレを買った」と。

DSとは相も変わらず売れ続けるNintendo DS。そして脳トレとは同ゲーム機用の知育ゲームです。確かにこのゲームは大人向けのゲームです。が、問題はそこではありません。かつては世の中にたくさんいる一般的な主婦としてテレビゲーム各種に対して否定的見解を持っていた母が購入したという点です。世が世ならゲーム脳理論に賛同していたであろう母が、です。

最近は脳トレに飽きて本体も埃をかぶっていたようですが、この年末年始で新しいゲームに興味を持ったようです。所謂「レイトン教授シリーズ」と呼ばれるゲーム。推理物と言うよりはナゾナゾとかパズルといったジャンルでしょうか。「監修:多湖輝」という名前を見てこれは母に勧めてみると面白そうだと思ってはいましたが、一足早く妹が実物を持ってきていました。同氏の著作である「頭の体操」を所有していた母は、案の定食いついているようです。おかげで年末年始の母は大変だったようです。私が持ち込んだ「もやしもん」既刊も全冊読破していたようですし、教授のゲームは二本もあるし。

なんかまるで母がゲームと漫画ばっかりの怠惰な人間であるかのようですが、決してそんな事はありません。私が実家にいる頃から運動もしているようです。今はどうか知りませんが夜に父とウォーキングに行っていた時期もありましたし。そんな母が新しい物に興味を示しました。「Wii Fitって面白そう」と。どんだけゲームっ子やねん。

ゲーム雑誌を見るような人間では無いのでCMで見たのでしょうか。昨今の任天堂は「子供向けだけだと頭打ちなんで、従来はゲームをしない人間に対象を広げる」という戦略だそうですが、少なくとも母を見ると大当たりのようです。かつては反ゲーム陣営にいた人間を取り込んでいるのですから。また、懐に余裕がある人間を新たにターゲットにしているという点も見逃せません。「お年玉でようやく本体購入」なんて子供を狙うより、「Wii Fitは面白そうだけどちょっと高い」という子育て世代を狙うより、「板と本体と無線LAN一式買ってきて」という引退世代を狙う方が、明らかに効率的です。まあ、飽きたら私が板だけでも回収することにしましょう。過去の例を考えると、今年の年末くらいには飽きてる頃でしょうから。


トップ 一覧 前の雑文 次の雑文