俗に「自分と同じ顔の人間は世の中に三人いる」と言われます。その理屈だと、私と同じ顔の人間がこの世の中にあと一人存在する事になります。いったいどこで何をしているのでしょうか。と書いてはみたものの、実際に「自分にそっくりな人間」を簡単に見る事ができる環境にある私にとっては、あまり興味をそそられるものでもありません。「王子と乞食」ではありませんが、そっくり入れ替わってもお互い「所帯持ちのサラリーマン」という似たような境遇では面白くありません。

私とよく似た顔と声を持つ従兄弟。前回会ったのは今年の正月でした。父方の実家に集まったのですが、そこでは叔父や叔母を混乱させ、別の従兄弟を混乱させと、ええ、よく考えると「どっちがどっちでしょう」みたいなことしかやってません。しかし、これはそう頻繁には会う事のない父方の親戚相手だったからかもしれません。ある程度会う頻度が高い相手ならばそうそう簡単には騙せないのではないでしょうか。例えば、何らかの仕草で見破られるとか。

と、先日まで考えていました。今年の夏、私の母方の祖母、そして叔母と、私の従兄弟が会う機会があったそうです。この両名、私とはそれなりの頻度で顔を合わせますが、従兄弟とは初対面です。私の母より、私にそっくりである事は聞かされていたようで、どれくらい似ているのかと興味はあったようです。で、実際に見てみるとあらびっくり。俺だ、と。瓜二つとはこの事かとびっくりしていたようです。

従兄弟という括りで考えると叔母の所にも私の従兄弟はいます。母方の親族の中では同世代には我々二人しか男は存在しないのですが、この二人の顔を見比べると、それほど似ているとは言えません。競馬血統学的に言うと、母父と母母が同一であるだけで、せいぜい50%程の同一性となります。父と母が同じである兄弟ですらそれなりに違ってくる部分は存在するわけでして、そう考えると「従兄弟なのに顔が似てない」というのはごく普通の事であると思われます。が、何故か父方の従兄弟という関係の我々は瓜二つと言われるほど。顔つきに関しては、父方の祖父母の遺伝子が過剰に働いたとでも考えるべきなのでしょうか。働かれた側としては、もうちょっとおとなしくされても構わなかったのですが。

これで父方の親戚、母方の親戚の双方から「瓜二つ」のお墨付きを頂きました。が、ここまでは親戚内ということもあり「そっくりって言ってるから、違うとも言いづらい」となっている可能性も否定できません。利害関係のない人間からの評価も頂きたいところです。そう考えていたところ、盆に実家の側で行われた地域の盆踊り大会に、私とその従兄弟が同じ場所に居合わせる事となりました。周囲は実家のご近所さん。三十年近いお付き合いであり、私には兄も弟もおらず妹しかいないという事も十分ご承知です。

ラムネ早飲み大会に参加したい息子を連れて会場に訪れた私。今の住居から年内に引っ越さなきゃいけないとかで私の父に相談に訪れた従兄弟、並びにその息子。薄暗闇の中、似たような顔が、似たような構成で行ったり来たりです。もうご近所さん大混乱です。あっちで子供と一緒に踊ってたと思ったら、こっちで父と談笑です。こっちでご近所さんに挨拶してたと思ったら、あっちで盆踊りです。子供の大きさが違うとか、荷物持ってないとか、その程度の差しかありません。ついには二人並んでいるところで直接聞かれました。「こちらはどなた？」と。「主人の兄の息子」とまともに答える母の声にかぶせて「生き別れの双子の兄です」と答えておきました。さすがに「腹違いの双子の兄貴」と言うと誤解を招きかねません。よくよく考えると間違っている言葉なのですが、うっかり「腹違い」の部分だけで納得されたら大問題です。

親戚に加えご近所さんからもお墨付きをいただきました。ここは駄目押しと行きたいところです。引越しの件で相談中の従兄弟、そしてその横で従兄弟の子供と遊んでいる私。二人揃ってＴシャツ一枚、眼鏡、黒の短髪です。妹に手伝ってもらい、私の携帯で写真を撮ってもらいました。携帯のメールに添付できるように小さいサイズで撮影してもらったのですが、そのサイズだと二人並んで写るには無理があります。仕方なく、二人揃っての写真は大きいサイズで。似た顔二つが並ぶ写真を撮る事ができました。

この写真を友人に見てもらう事にします。今回のターゲットは友人山某。私とはかれこれ二十年近い付き合いです。以前「俺によく似た従兄弟がいるんで今度会わせてみたい」と言っていたのですが、まずは写真でご挨拶です。私の写真、そして従兄弟の写真を二度に分けて送る事にしました。送信してみたらアドレス違ってたとか、過去のメールから奴のアドレス探すのに難儀したとか、そういうお約束もこなしつつ再送。即座に返事が返ってきました。
「両方ともお前じゃないか」
いやいや違うって、携帯にはサイズが大きすぎて遅れないけど、ちゃんと二人で写ったのもあるんだって、というと、「じゃ、PCのアドレスに送ってくれ」と。今度は携帯で使用しているmicroSDカードをSDカードに変換するアダプタを探すのに一晩を費やしましたが、ようやく見つかり改めて送信。しばしの後、反応がありました。
「両方ともお前じゃないか」
同じ反応じゃないか。

父方の親戚、母方の親戚、実家のご近所さん、そして私の友人。これだけお墨付きを貰えればもう文句はないでしょう。私には瓜二つの従兄弟がいます。双子のように完全犯罪だって可能かもしれません。二人並べば「かげぶんしんのじゅつー！」とかできるかもしれません。と、夢は膨らみますが必ずしも良いことだけではありません。

現在引っ越し先を求める従兄弟。そして引越しに向け動いている実家。双方の状況は似通っています。「実家は引越し、従兄弟は私の実家だった家に住む」という選択肢もありました。しかし、それには従兄弟の顔が問題です。私と似たような顔が、私と似たような家族構成で、私の実家に住む。詳しい事情を知らない人ご近所さんから見ると、どう考えても「私が地元に帰ってきた」となります。逐一真相を説明するのも大変でしょう。もし、従兄弟の顔が「まあ似てる事は似てるけどねえ」程度ならば問題はありません。「親戚だったらこれくらい似ていてもおかしくない」となります。しかし、見る人揃って「瓜二つ」と太鼓判を押されるほどだとそうはいきません。ましてや、実家の近所は高齢化地域。還暦なんぞとっくに過ぎた方々が大勢います。となると若干ボケが入ってきてもおかしくありません。「あんたが小さい頃はねえ」なんて話に毎回毎回「いや、それは俺の従兄弟の話で」と返していてもきりがありません。似すぎるのも良し悪しです。