かれこれ十年くらい昔、「マイホームドリーム2」というPC用のゲームがありました。MS-DOS用だったという辺り、時代を感じる一品です。ゲーム内容はというと、建築士となって家を設計し、顧客、もしくは不動産屋に売却、その売却益を元に事業拡張というものです。設計した家の中を実際に歩いて回る機能なんてものもあったのですが、如何せん当時のマシンスペックでは玄関表示だけでも分単位で必要な有様。なんで、殆ど設計しかしてませんでした。
適当に家を建てて適当に売り払って、というプレーも可能ですが、任意の顧客から注文を聞いて設計していく方が一般的です。予算だの立地条件だの、間取りや必要な設備、果ては内装の色合いの統一まで、様々な条件を聞いていきます。きちんと顧客の要望を満たしていればその家を高値で購入してくれますし、自らの欲望の赴くまま適当に設計していくと怒って買い取ってくれなくなります。そうなると不良債権化してしまうのでそれなりのお値段で泣く泣く不動産屋に売らなければなりません。また、顧客から費用の前払いをしてもらう事ができず、必要経費は自分のポケットマネーから出さなければならないため、一度に建設できる家の数に限度があります。せっかく新規顧客が来てくれても、年単位で待ちぼうけという事態も珍しくありません。ゲーム期間は十年なのに五年も待たされるお客さんは怒ったりしないのでしょうか。
ゲーム序盤はともかく、ある程度軌道に乗ってくると「顧客選び」>「要望聞き取り」>「設計」>「時間飛ばし」のルーチンワークとなります。機能にも限度があるので、結局クリアする前に飽きてしまいました。家屋の設計にやたら頭を使って疲れてしまうのも原因の一つでした。やれ吹き抜けが必要だ、やれ駐車場は二台分だ、やれ日当たりが大切だ。限りある予算の中でそんな要望にも気を配らなければなりません。勿論、容積率や建蔽率といった、普通に暮らす分にはマイホームを建てるときくらいにしか縁が無い数値にも気を使わなければいけません。「容積率があと10%あれば便所が一つ増えるのに」と思った事も一度や二度ではありませんでした。
先日、実家の引越し先に関して、設計図の初版を見せてもらいました。無事購入できた土地の形状に合わせ、一級建築士である父がとりあえず書いてみたものだそうです。アレが欲しい、コレが必要という漠然とした希望をとりあえず全部突っ込んでみたようです。んで、「図面はあるから適当に書いてみろ」とおっしゃいます。書くだけならば無料だし、いろいろな意見があったほうがいいから、だそうで。面白そうです。ゲーム内とは言え、かつては一級建築士として何軒もの家を建てた事が思い出されます。およそ十年ぶりに図面書きに取り掛かりました。
まずは要望の聞き取りです。両親の要望をまとめるとこんな感じでした。
先程書ききれなかった要望の中に「現在使用しているシステムキッチンを引き続き使いたい」というものがありました。業者向けの展示会で、気に入ったのか知りませんが何故か父が衝動買いしたシステムキッチン。値引き交渉までしたそうですが、普通の住居には些か大きすぎる代物です。泥縄的に改築して実家で使う事となりましたが、それをそのまま使いたいとの事です。使い慣れたキッチンを新居でも使い続けたい、というのは分かります。まだ数年しか使っていないため手放すのが惜しいというのもあるかもしれません。が、設計する側としてはなかなか頭の痛い要望となりました。普通は「台所は何坪欲しい」という要望になりますが、これが「台所は東西に何メートル、南北に何メートル必要」なんてことになります。それだけの空間を確保して居間にくっ付けてあれを置いてこれを置いて、ああ風呂と便所を忘れてた、とかやってると「便所の入り口は台所の横」なんて家ができあがります。さらに「やっぱお風呂はもうちょっと広く」とかやった結果、風呂部分だけ妙に出っ張ってみたり。それどころか道路まではみ出たり。
「やっぱ居間はこれくらい広くほしいよねー」とかやったせいでしょうか。どうにもこうにも土地が不足気味です。具体的には南北方向に不足気味。東西はある程度誤魔化せそうなんですが。で、散々悩んだ挙句ギブアップ。完成に至らずに終わってしまいました。後日聞くところには、父の設計案も「地上一階地下一階」から「地上二階」へと大幅に変わったりとなかなか迷走しているようです。盆に帰省する頃には最終案が纏まっている事でしょうが、いったいどのような家になっているのでしょうか。