平成五年四月二日土曜日。その日は、あるゲームの発売日でした。Final Fantasy VI。今でも続くFFシリーズの六作目です。当時はまだスーパーファミコンでの販売でした。発売日が土曜日、それでなくとも春休み真っ只中という事で、各地のゲームショップには長蛇の列ができていた事でしょう。私も友人達と共にその行列の中にいました。「予約したから買いに行くぞ」と誘われ、よし俺も、とお年玉の残りを握り締め朝から並んでおりました。
勿論、期待の超大作という事で予約をしていなければ購入は不可能です。実際、並んでいる最中にもどこぞの親子連れが「予約していなければ無理です」と言われてすごすご帰っていく光景が見られました。ああ、あの親子連れは他の店にも行くのだろうかと、同じく予約をしていない私は行列の中で考えていました。そんなどうでもいい光景を横目に、レジではどんどんお客が捌かれていきます。「FFVIください」の声と共に予約券と一万数千円が差し出され、「はいどうぞ」とお釣りとソフトが渡されます。前の方から一人減り、二人減り、友人達も無事購入できてさあ、次はとうとう私の番。
「RFスイッチブースターといただきストリート2ください」
不意打ちです。店としてはよりにもよってこんな日に買いに来るな、という感じでしょうか。いい流れを完全に止め、そのおかげで背後からいやな視線を集めつつも買い物は無事終了しました。
「接客ゲーム」と呼ばれるタイプのゲームがあります。正確にはそういうジャンルが存在するのではなく、ボードゲームのような「みんなでわいわいとできるゲーム」がそのように扱われます。ボードゲームでなくとも、対戦格闘ゲームのように拘束時間が短い物も含まれる場合があります。これは、一度にプレーできるのは二人だけですが、外野も騒げるしすぐに順番が回ってくるから、という理由があります。また、そういう観点からすると歴史シミュレーションゲームのようなジャンルは、一度に複数人がプレーできる物の拘束時間が長すぎるという点で接客ゲームには属していないと見る事ができます。いや、接客しようと思えばできるんですけどね。ただ、拘束時間が長すぎるので、一回で終わらないと次回持越しとなってしまいます。人数が多すぎる場合、それだけの人数が再び同じ場所に集まらなければなりません。それが果せずに電子の藻屑と化したデータが世の中にはどれだけあるのでしょうか。例えば、君主選びくじ引きで馬騰を引いたがために知力六十程の武将を三顧の礼で迎え入れて狂喜乱舞した三国志IVの中断データとか。
対戦格闘ゲームはコマンドが分からない、レースゲームはすぐコースアウトする。そういうゲームに不慣れな方々も多いため、接客ゲームとしては双六タイプのゲームが一般的です。このジャンルで有名なのは「桃太郎電鉄」シリーズでしょう。基本的なルールはサイコロを振って目的地を目指すというものです。かつて友人との対戦風景をネタにした事もありましたが、しかしあれから五年も経過しているのか。接客とは言え、客がいなければその意味も半減です。いや、あの場面は私が客の立場であり、その後彼の接客ゲームがどれほど活躍したかは全く知らないのですが。
「桃鉄」シリーズと共に接客ゲームとして根強い人気を持つのが「いただきストリート」シリーズです。競売やインサイダー取引、五倍買いに十株売りと一見さんお断りではありますが奥の深いゲームです。単純に店を買って増資をするだけでもある程度楽しめますし、上記テクニックを身につければ終盤まで泥仕合を展開する事も可能です。基本ルールは自分の店を大きくして買い物料を上げ、その店に止まったほかのプレーヤーからその額をぼったくる、もとい、お買い上げ頂いて資産を一定額貯めるというものです。「相手の大きい店に止まるとヤバイ」「自分の店を大きくすると有利」というわかりやすいルールになっています。先日はシリーズ最新作がNintendo DS用で発売されました。ええ、ええ、前日まで特に買う気が無いどころか発売される事も知らなかったのに買っちゃいましたとも。
接客ゲームの問題点は、「客が来ないと接客できない」という点です。なかなか客になる機会が無いので再戦してない桃太郎電鉄とか、その後全員集まる機会が無かったため中原に攻め入る機会が無かった三国志IVなんかがそうです。三国志なんかは一人でプレーする事が一般的なのでさて置くとして、接客要素を前面に押し出したゲームだと、逆にコンピュータ相手だと物足りないという事になります。どうしたってCPUの思考パターンには限界があります。複雑な思考パターンだと処理速度の低下を招き、快適なゲーム展開ができなくなります。かと言って単純なパターンだと飽きが来るまでが速くなります。出目の操作等である程度誤魔化す事もできますが、それにも限度があります。楽しさを最大限に生かすためには、対人プレーが最適なのです。その為には対戦相手を見つける環境を作る事が最善手と成ります。
という訳で、今夜もWi-Fi通信経由で対戦しています。直接顔をあわせて対戦する場合は遠慮もありますが、顔も名前も知らない相手ならば遠慮は無用です。首位が独走態勢に入るための助走を始めたと見るや二位と三位が結託して相互不可侵条約を結んだり、それら三人が順調に潰しあうのを尻目にいつの間にか最下位が追いついていたり。簡易チャット機能が付いているので、「二は出るなって言っただろうが!」とか「ごちそーさまー」などといった簡単な会話も可能です。客がいなくても接客ゲームが楽しめるとは、いい世の中になったものです。唯一の問題は、若干拘束時間が長いため深夜にやると翌日に響く点です。だいたい一時間もあれば決着が付くのですが、うっかり長引くと二時間くらいかかります。眠くなると凡ミスが増えるのでできれば短期決戦でいきたいところですが、そうそう上手くはいきません。そうなるとどんどん長引き、眠くなり、凡ミスをし、決着がつかず……キリがありません。