私の実家も相方の実家も、それなりに年季が入った一軒家です。両者とも田舎者である、という事もありますが、できることならば集合住宅ではなく一軒屋に住みたいと思っていました。しかし、購入は金銭面を考えると論外ですし、借家はまたいろいろと面倒です。引っ越すにしても数年は集合住宅だろうと考えていました。
そんなある日、私の母がこんな話を持ってきました。
「親戚の家が空家になってるんだが見てみないか」
詳しい話を聞いてみたのですが、前年だかそのまた前年だか忘れましたが、その頃から母の兄の奥さん、つまり伯母の実家が空家になっている、とのことでした。一人暮らしであったお祖母さんが亡くなられて以来、誰も住んでいない、と。ちょっと古い家なので人の手が入っていないとすぐにボロボロになってしまう。よかったら先方に話を通してみるがどうか、と。
場所を聞いてみましたが、通勤にはそれほど支障が無いところです。都会に住むよりは田舎に住んだ方がいいと考える私にとっては、ありがたい話です。しかし、ちょっと不安な面もありました。「ちょっと古い家」という点です。
私の実家は、私が一歳の頃に完成しました。当時の写真が残っていますが、私がベビーカーに乗っている後ろに、建設途中の実家が写っています。つまり、私の実家は築20数年であると思われます。また、相方の実家はそれよりも若干古い家です。だいたい築25年前後のようです。20年もすると、家なんてものは結構ボロボロになってきます。床下がもろくなってきたり、配管が詰まったり。親父と共に住宅の修繕工事に行った経験から、古い住宅にはそれらの問題がつきものであると考えていました。
そして、今回話を持ちかけられた家とは。……だいたい、私の二倍程度の年数が経過しているそうで。非常に不安でした。どんなあばら屋なんだろうかと。私の実家の近所に「き○がいババアの家」と呼ばれていた家があるのですが、それくらいなのではないかと考えていました。それにしても直球な呼び名だな。ちなみにその直球名がついた家。具体的にどんな家かと言いますと、数年前の台風で外壁が全て剥がれ落ち、内装も崩れているせいか新聞広告で穴が塞いであり、家の周囲はゴミが山積している、そんな家です。県道沿いに面しているのですが、ちょっと通ったくらいではそこに人が住んでいるとは考えられないような家です。同じ小学校に通っていた相方も、「まさかあそこに人が住んでるなんて思わなかった」と言っていたくらいですから、あの地域の住民以外はただの空家としか考えていない事でしょう。
まさかそこまで酷くはないでしょうが、瓦葺ではなくトタン屋根くらいは充分考えられる、そんな事を考えながら実際に見学してみる日がやってきました。案内してくれる伯父とは初対面なので愛想良く挨拶をし、いざその家へ。
「なんだ、普通じゃん」
普通と言いますか、予想していたものよりは圧倒的に素晴らしいと言うか、いや、そりゃ、想像していた家は最悪もいいところだったりするんですが。伯父曰く、葬儀が終わってからは誰も来ていないので散らかっている、故人の物の整理もしなければいけないので、実際に引っ越すのならば大掃除をしなければいけない、それでもいいか、とのことです。いいかもなにも、庭付き駐車場付き二階建て住宅に住ませてもらえるんならこちらからお願いしたいところです。すでに夫婦揃って引っ越す気満々です。
その場では、引っ越すまでの予定と、ちょっとした話し合いをしました。だいたい二ヶ月程度、毎週末に家の掃除をする、何かあったらその都度話し合う、という簡単な事を決め、そして家賃交渉です。こちらとしては、その当時払っていた家賃より若干上がっても仕方が無いと考えていました。若干の制限があるとは言え一戸建てです。しかも庭付きです。どれくらいのお家賃かと尋ねてみたならば。
「家の手入れをお願いするようなもんだから、月一万でどう?」
……本当にそれでいいんですか?かくして契約成立。二ヵ月後の引越しに向けて、大掃除大作戦が始まりました。