私が有する数多ある欠点の中の一つに「アドリブに弱い」というものがあります。どうにも「咄嗟の判断」というやつが苦手でして。ある程度考えておいて、それに従って物事を進めるというのはなんとかなるのですが。
お仕事に至っても同様です。時間が無い、しかしこのままではマズイ、そんな場面で咄嗟にとった行動の大部分は、結果的に後悔するようなものだったりします。逆に、このままではマズイ、でもちょっと時間がある、よし、じっくり考えよう。そういう手順で進めた事は結構まともなものだったりします。咄嗟の判断が苦手というよりは、咄嗟に判断した結果が裏目、という事の方が多いのでしょうか。深読みしてドラを切ったら満貫直撃されたり。そりゃ仕事じゃないか。
この欠点は仕事のみではありません。芸風にも影響を与えています。結婚ネタで奇襲した時はじっくり考えた結果ですし、出産ネタで奇襲された時は全く考える時間が無かった結果です。どっしり構えている分には問題ないんですが、ほんの少しでも予想外の行動をとられると途端に動揺してしまいます。つい先日も、この欠点を痛感しました。笑わせてナンボである人間にとっては大きな痛手です。もっと精進せねばならない、と思わせてくれる出来事でした。
先日の、従兄弟の結婚式においての話です。顔だけ見れば私と似ている、とよく言われている従兄弟の結婚式でした。事実、新婦のご両親からは「(新郎の)お兄さんかと思った」というお言葉を頂戴したほどです。たしかに、席次表を見ると新郎には兄がいると明記されています。似たような顔立ちの人間がいれば兄弟だと勘違いしても仕方ありません。ありませんが、その従兄弟は私より五歳も年上なのですが。もうそろそろ三十路に足を突っ込もうとしている人間の、さらに兄貴という事は、私は三十代真っ盛りに見えていたということでしょうか。どちらかというと、年齢的には新婦と同じくらいの年齢なのですが。と言うか、正確には新婦と同級生になるのですが。そんな事をオブラートに包んで返答しました。母が。
ああああ、アドリブなんて、アドリブなんて。
しばしの自己嫌悪に陥った後。披露宴もお開きです。帰る前に新郎新婦に挨拶をしていきます。ちんたら進む列の最後尾を、さらにちんたら進んでいたので新郎新婦のもとにたどり着いたのは我々が最後でした。しばし歓談していると、新郎の、つまり従兄弟の友人が近寄ってきました。曰く、よく似ている、と。それに対して私がなんと答えたか。
「そんなに似てますかねぇ」
……
……
違うだろう。そこは、こう、もうちょっと考えて回答するべきだろう。
例えば、「実は兄弟なんですよ」なんて言ってみたり。横にいる俺の親父に刺されますか。
んじゃ、御得意の「腹違いの双子の兄貴なんですよ」って言ってみるとか。同じか。刺されるか。冷静に考えるとボケであるという事は分かるんですが。
ならば、「影武者なんです」とか。ちょっと時期外れだったか。
と、こんな具合に笑いを取れそうな回答や刺されそうな回答は山ほどあるというのに、何故に私は全く話の膨らまない回答をしますか。
ここでこうやって回答例をいくら考えても既に後の祭りです。従兄弟と私が同席し、見知らぬ他人がおり、さらに我々の顔が似ているという事に話が及ぶ機会なんざ、今後あるとも思えません。他の従兄弟達は皆結婚してしまったし、葬式ではそんな阿呆な話をするわけにもいきません。かと言って、冠婚葬祭以外に我々が集まる機会も考えられず。ああ、あの五分間のやり取りだけ。あそこだけやり直させてください。え?披露宴?ああ、それはどうでもいいです。あのやり取りだけで結構。