学生時代、ごく稀にですが恋愛相談というものをされた事があります。きゃー。まあ、相談といっても結論を出して欲しいとか、後押ししてほしいという類のものではなく、誰にも喋れないんでやむなく私に、というパターンが主でした。ほぼ同時期に二人の友人から二股に関しての相談を受けてましたし。それ以降、そしてそれ以前にそういう色恋沙汰の相談を受ける事はほとんどないわけでしたから、やはりはけ口のようなものだったのかとも思います。

片方は高専の同期からの相談でした。曰く、バイト先で迫られた、どないしよう、と。ポイントは「迫られた」という点です。無論、同期の友人は男。男が女に迫られてって、おい。それを俺に相談するというのか。女っ気の欠片もなかった俺に。

まあ、彼の場合は私に相談する理由というのがちゃんとありまして。迫られたバイト先というのが私の実家の近所だったんですが、そのお相手の女性も近辺に住んでいるとの事。それからいろいろ事情を聞いてみると、どうも私は小学校の時にそのお相手を見かけた事があるようなんです。彼がその頃付き合っていた彼女と、迫られたお相手の双方を知っていて、かつ相談が可能な人間というのは世の中に私だけしかいなかったようなのです。ああ、複雑だねぇ。

もっとも、色恋Lv1で経験値0の私がアドバイスできる事なんざそれほどありません。「修羅場になる前になんとかしろ。とりあえず、迫ってきた方を片付けろ」と、その程度の事を言った記憶があります。で、彼が実際にどのように行動したかというと。

相談から半月ほど経過した頃。我々は学校の研修旅行で東京に来ていました。九州からわざわざ東京までやってきたからには、当然自由時間はいろんなところを観光します。私は週末まで滞在し、就職のために上京していた友人と合流して秋葉原に行くつもりだったので、研修中はほとんどどこにも行きませんでした。神田の古本街をぶらぶらしていた程度です。で、研修期間というのが約1週間。金曜日には終了する日程でした。

金曜日に滞在組と帰還組と別れる時。滞在組はそれぞれ週末の宿を確保しており、帰還組を見送ってからは完全な自由行動です。宿泊の約束をしていた親戚に連絡をとり、移動の準備をしていたところ、件の彼が近寄って来ました。

お、どうしたん?
「頼む、これを預かってくれ」
何だ、こりゃ?
「香水」
お土産?彼女さんはそこにいるのに?
「ばれるとマズイ。頼むから預かってくれ」
ひょっとして……例のお相手へのお土産?

阿呆です。泥沼への道を突っ走っているようです。彼曰く、滞在中は一緒に行動するからばれるかもしれない、あっちに帰るまで隠していてくれ、との事。なんだかんだで押し切られ私が預かる事になりましたが、返す時に釘をさしておきました。次は手伝わないぞ、と。そのせいかどうか知りませんが、以後はこの件に関して相談を受ける事はありませんでした。刺されたりもしなかったようなので、何とかなったのだと思います。

それからさらに半月ほど経過したある日。友人達と集まった際にこの話をしてみました。多少の脚色は混ざったかもしれませんが、ほぼ実際の話のまま。話が終わった頃、その場にいた友人が口を開きました。
「実は俺も……」
お前もかいっ。

彼には、身持ちの固い彼女を持っているのであふれるリビドーがむにゃもごもご、という事情を持っていました。まあ、事情があろうがなかろうが、彼女すらいない私にしてみれば羨ましい話です。たしか、この時の幕切れは「やばい空気を察知して逃げ出した」だったと思います。このままだと若旦那ルート一直線だ、みたいな事を言ってましたし。

あれから時が流れ、私にも相方という存在ができました。リビドーがむにゃもごもごな友人にも当時とは違う彼女がいます。昔とは違った立場でなんらかのコメントができるかもしれません。年末に集まった際にその辺の話を振ってみました。

彼女さんとはどんな感じなん?
「大変だぞ。束縛されまくり」
ほう、どんな具合に?
「他の女性と同じ場にいる事がバレると怒られる」
へ?ちょっとでも駄目なの?
「駄目」
俺の相方でも?
「駄目」
本当に?
「最近は妹とも疎遠になってるんだよ」
うわ。本格的ですな。つーか、無茶苦茶だな。
「まあね」
しかし、自業自得とも言うな
「そうなんだよ」

過去の所業がばれたようで、完全に行動を束縛されているそうです。そこまでするのかと思う反面、そうでもしないとこの男は止められないな、と納得する部分もありました。それにしても、私の相方がこういう束縛する性格でなくてよかった。そう相方に話したところ、「だって、二股かけようにも誰にも相手にしてもらえないでしょ」だと。ああ、そうですね。良くご存知ですね。しくしく。


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