一人のお嬢さんがいます。箸より重いものを持った事が無く、蝶よ花よと育てられたような、生粋のお嬢様のように見えます。そう、まるで一挙手一投足毎に薔薇の花びらが舞うような、そんなお嬢様です。
おや、お嬢様、様子が変です。急に動きが止まりました。どうしたのでしょう。あ、くしゃみです。くしゃみが出そうです。出るぞ……出るぞ……
「っっくしょーーーい!!ぅぅあああっと」
……台無し。
上の文章を書いて思ったのは「くしゃみを文章で表現する事はなかなか難しい」なんて事だったりするのですが。それはさておき。私のくしゃみは、他人からよく「うるさい」と言われます。なにしろ、小学校の頃は「くしゃみのcloud」と言われていたくらいです。それくらい喧しいくしゃみでした。幼稚園の頃くらいは普通の、人並み程度のくしゃみだったのですが、小学校の3年生くらいからは授業中に全力でくしゃみをすると周囲の教室にまで迷惑をかけてしまうようなことになってしまいました。いや、大抵は口を覆ったりして多少なりともうるさくならないように努力はするのですが、それでも不意を突かれた時なんかは騒音を撒き散らす事になります。へっくしょーい。
くしゃみを文字で表現しようとすると、「はくしょん」だとか「はくしょい」、「へっくしょーん」なんて表現になります。あ、由緒正しき「いっきし」だか「にっぷし」なんて表現もありますね。加藤茶。しかし、私のくしゃみを表現すると「へっふん」となります。豪快バージョンだと「へっふーん」です。文字にするとどうにも脱力してしまうような感じがしますが、実際に聞くと脱力どころではありません。うるさくて。実際、面と向かって「そのうるさいくしゃみはどうにかならないのか」と聞かれたこともあります。私も、「可愛いくしゃみをする方法があったら教えてくれ」と言い返します。
可愛いくしゃみ。そう、女性が出すくしゃみのようなやつです。例によって例の如く文字で表現すると「くちゅん」とか「ちゅん」とか、とにかくほとんど音が出ないようなくしゃみ、あれです。そのようなくしゃみを出す女性に対して、幾度となく「どうやればそんなくしゃみが出るのか」という事を尋ねてきました。もっとも、向こうにしてみれば異様にデカイ私のくしゃみのほうが不思議なようで、「どうやればあんなに大きなくしゃみがでるのか」と聞き返されます。んで、結局双方ともに「そういうくしゃみしか出てこない」という回答しかできません。そんなわけで、未だに「大きいくしゃみ」と「小さいくしゃみ」の境界線というものが見えてきません。私が「小さい」世界から「大きい」世界へと移って行ったということは、逆に「小さい」世界へと戻る事も可能なのではないでしょうか。ああ、戻りたい。せめて他人に迷惑をかけないようになりたい。
そんな私ですが、「このくしゃみには勝った」と言えるような相手がいました。なんせ、そのくしゃみは文字表現すると「へぶらくしょーい」らしいですから。……どんなくしゃみだ、そりゃ。いや、残念ながら直接聞いた事はないんです。ただ、人伝いに「そんなくしゃみをする人物がいる」と聞いただけでして。小学生の頃でしたし、今ではその人物もどこで何をしているか分かりません。ええ、そうです。結局自分の耳では自分以上のくしゃみを聞いた事がないのです。一度でいいから、自分以上のくしゃみを聞いてみたい。そして、その人に聞いてみたい。
「どうすればそんなに大きなくしゃみができるんですか?」
だから、わからんちゅーに。