匿名雑文祭への参加作品です。

昨日は大変な目に合った。私の天敵の男がやって来たのだ。私は見目麗しきご主人様に溺愛されている猫である。名前は「エドワード・ロイヤル・ジュゲムジュゲム・フランシスカ」である。もっとも、ご主人様は「長すぎるから呼びにくい」と言って私の事を「うーちゃん」としか呼んではくれない。こう見えても由緒正しき血筋のもとに生まれた誇り高き猫である。五代も続く雑種の家系だ。

さて、ご主人様は私を非常に可愛がってくれる。しかし、ご主人様の恋人を名乗るその男は私を毛嫌いしているのだ。あの男は猫アレルギーなので私のことを嫌っているのだとご主人様は言う。私の毛を吸い込むとくしゃみや鼻水が止まらないようだ。ご主人様は「私の愛の力でこーちゃんの猫アレルギーを治してみせるわ」ともおっしゃるのだが、どうも望みは薄そうである。

昨日から男はご主人様の部屋にいる。そのおかげで私はひどい目にあったのだ。男は猫アレルギーの他に花粉症も患っているようで、ご主人様の部屋にやって来た時点ですでに鼻が真っ赤で、かなり不機嫌そうであった。そこで私の姿を見かけ、私を部屋から追い出そうとしたのだ。あの男はご主人様に対して、「猫と俺とどっちが大切なんだ」と怒鳴っておった。「猫を捨てないんなら別れるぞ」とも言っておった。ご主人様は涙ながらに「だって、こーちゃんも、うーちゃんも好き、大好きなんだもん。どっちとも一緒にいたいんだもん」と言い返しておられた。私もご主人様と一緒ににゃーにゃー言っていたのだが、かえって男の怒りに触れてしまったようでとうとう部屋から追い出されてしまった。おかげで昨日は寒空の下、空腹に耐えねばならなかったのだ。

なんとか仕返しをせねばなるまい。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。今日は男の隙をついて、なんとか部屋に入る事ができた。ベッドの上では発情した男がご主人様に襲い掛かっているところだ。もう少し待たねばならぬ。奴は、事が終わると深い眠りに落ちるはずだ。一時間ほどが経過し、奴も、そしてご主人様もぐっすりと眠ってしまったようだ。今がチャンスである。空気清浄機のスイッチを切り、ベッドサイドの窓を開け放つ。冷え切った夜の空気が部屋の中に入り込んでくる。奴が寝返りをうったときはちょっと緊張したのだが、幸い目覚めはしなかった。

これで、翌朝には部屋中に花粉が飛んでいるはずである。ついでに私の毛も奴の枕元に落としていくとしよう。目がさめた奴がどれだけひどいくしゃみをするのか。何枚の鼻紙を使う事になるのか。きっと奴の鼻は真っ赤になる事であろう。明日が楽しみである。


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