実家が引っ越すと聞いたのは昨年の春のことでした。あれから一年と半年。未だに引っ越していません。「年内に引っ越す」と聞いていたのですが、現状では「年度内に引っ越す」事も怪しいようです。まあ、耐震偽装の絡みで建築基準の変更があり、さらにそれらのせいでなかなか建築許可が下りなかったため着工が遅れた、というのもあります。ですが、実際のところは父がなかなか仕事しないからです。いや、他所様のお宅はきちんと仕事してますよ。自分ちは後回しになっているだけです。後回しって、予定では既に引っ越して落ち着いているはずの時期に未だに地ならしが終わっていない状況はちょっと後に回しすぎだと思うよ。
基礎工事どころか地面が平らになっていないのです。なので、つい最近でも間取り図が変化しているようです。当初の予定では地上一階地下一階、それが地上二階建てとなり、どうやら最近では地上一階建てに落ち着いたようです。いや、なんでも二階建てにすると税金が増えるんだそうで、それでとりあえず建設段階では一階建てとして「まるで二階建てのような屋根裏部屋」を作るんだそうです。ああ、あくまで屋根裏部屋ですよ。平屋です二階建てじゃありませんよ。ほら階段がありませんからここは押入れですよ。ちょっと酔っ払った隙に踏み段ができるかもしれませんけど一階建てですよほらだから税金まけてね、とかいう作戦だそうです。まあ、私には「こっそり階段を作ろうとしたけどとりあえずその押入れ部分にいろいろ荷物を置いてたら本当に押入れになって階段が作れなくなり、片付けるのも面倒なので名実共に平屋になってしまった」という未来が見えます。うちの父はそんな感じなのです。
話は変わりますが、先日面白い物を見つけました。「ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントポートフォリオ・マネジャー」、平たく言えばすっげー投資家ですが、その人がまとめた「伸びる会社 ダメな会社の法則」というものです。零細企業とは言え、父の会社は株式会社です。株式会社というとあれです。有限会社よりも強い階層に位置します。いや、勿論有限会社と株式会社の違いというものはそういう強弱関係とかとは全く関係ないものだとは分かっていますが、そこはこう、「有限会社より株式会社のほうが偉そう」という感覚で読み飛ばしてください。で、これらの法則。基本的には大企業を対象としているわけですが、そこをあえて田舎の零細土建屋に当てはめてみましょう。
例えば「コンピューターをさわれない社長は将来性が少ない」。社長、というか親父、電卓くらいならば触れるけど。電卓じゃ駄目?ユンボとかクレーン車じゃ駄目?
他には「役員に同族が多すぎる会社は要注意」。役員というと、両親と母の妹、あと税理士である父の従兄弟だったかな。全力で同族です。本当にありがとうございました。
「社長の子息が役員の場合、取り巻きの発生を想像しておいた方がよい」。役員就任の経緯は以前も書きましたが、私にもそのなんとかいう役職に就ける可能性はあったわけです。そうなると取り巻きが発生するとかいう事のようです。跡は継がないんだけど、なんか湧いて出てくるんかな。「若社長、今度飲みに行きませんか」とか言われてみたいな。継がないけど。
「トイレのきれいな会社に投資しても儲かるとは限らないが、トイレの汚い会社への投資は必ず損をする(=トイレの法則)」。トイレねえ。下水が通ってからまだ十年経ってないんだよねえ。必然的にそれまでは汲み取り式できれいとか汚いとか以前の問題だったわけです。で、現在では水洗だからきれいはきれいなのですが、今度は便器の隣の棚にやたらと本が山積みで見た目が汚くなっています。山となっている本の大部分は十年ほど前に復刻版が出たサザエさん。全部で四十五巻だったと思いますが、そのうちの半分くらいはトイレに常備されています。機会があればカリアゲ君なんかも置いておきたいところです。
全然関係ないと思われるかもしれませんが、この法則の中に興味深い物がありました。
「社長室に1メートル以上の高さの観葉植物、ニスで塗られた切り株、はく製、それと見て作者のわかる絵画、高級酒、ゴルフクラブ、ゴルフコンペのトロフィー、著名人(有力取引先を除く)とのスナップ写真のうち2つ以上置いてある場合は投資をする前に十分な検討・が必要であり、4つ以上あればその会社は終わっている(=社長室の法則2)」
前述したとおり、実家は引っ越そうとしており、そして実家には父の会社の事務所がくっついており、さらには未だに間取りは迷走中です。という事は、この「社長室の法則2」にあえて当てはまるような社長室を作る事も可能だという事です。実際には社長室ではなく事務所全体となりますが、まあ細かい事は気にしない。
1メートル以上の高さの観葉植物とかニスで塗られた切り株なんかは資材置き場から引っこ抜いてくればいいでしょう。ニス?ああ、多分庭先に転がってるんで適当に塗っておけば問題ありません。クレオソートとかでもいいのかな。
次ははく製。ちょっとハードルが高いと思いきや、父方の親戚にはイノシシ猟を趣味とする人がいます。ええと、父の義兄にあたるんでしたかね。で、その人の家にはイノシシのはく製がありました。余ってないかな。余ってないならさらにその人の知り合いに尋ねてみるとか。とにかくこれもクリアできそうです。
それと見て作者のわかる絵画。なかなか難しい問題です。現在の事務所には一枚の絵が飾られています。なんでも母方の親戚のなんとかさんが絵描きで、その人の絵なんだそうです。「それと見て」という部分はともかく作者が誰かは分かるんでこの絵でいきましょう。日本語的に意味が変わっている事は気にしない気にしない。
高級酒。これはろくに酒を飲まない私よりも、父を基準として考えたほうがいいでしょう。高級酒とはきっと旨い酒の事でしょう。という事は父にとって旨い酒。ビールなんてどれでも同じとばかりに銘柄に全くこだわりがなかった父が「あれは旨かった」と語ったらしいプレミアムモルツがふさわしい事でしょう。奮発して500ml缶あたりで。
ゴルフクラブ、ゴルフコンペのトロフィー。これは無理だ。あの親父ゴルフやらないもん。俺もやらないもん。
著名人(有力取引先を除く)とのスナップ写真。これは実家の近所のおっちゃんでいきましょう。私から見ると小学校の同級生の父親にあたる人物です。今年の夏には盆踊り会場で挨拶を交わしました。近所のおっちゃんではありますが、対外的には県議会議員というけったいな肩書きをお持ちなので問題ないでしょう。多分、頼めば写真の一枚や二枚くらいいけるはずです。お互いが普段着だと近所のおっさん達の一コマに過ぎませんが、双方がスーツでどこぞの会議室で撮影だとなんか偉そうに見えそうです。
パーフェクトを目指すならば是非父にはゴルフに手を出してほしいのですが、今から頑張ってもコンペのトロフィーを貰うまで何年かかるか分からないので諦めましょう。何より、「4つ以上あればその会社は終わっている」ものを既に六つ埋める事ができたのですから。さあ、あとは新事務所に上記のあれこれを置くだけ。きっちり置いていって、そして廃業してもらいたいのですが、早くしないと引っ越す前に父が引退してしまいます。本当に年度内に引越できるのかな。