年明け早々に父方の祖母が亡くなったわけですが、その後様々な宗教行事のために毎週実家に通っていた我が父。いや、宗教行事と言ってもなんか面妖なあれこれがあるわけではなく、ごく一般的な法要のためです。わざわざ毎週通わなくてもとも思いますが、まあ色々思うところもあったようでして。

久しぶりに、しかも定期的に実家に顔を出していたためか、様々な方々から「たまにはうちにも寄っていけ」というような事を言われたようです。それまでは盆正月程度しか帰省していなかったのですから、声を掛けてくれる方々も結構いたようで。んで、その声を掛けてくる方々が異口同音に「あんたの家と違って狭いし汚いけど」と言っていたそうです。

小さいながらも「株式会社の社長」と、肩書きだけ見れば立派な一国一城の主です。おそらく声を掛けてきた方々は「社長なんだからきっと凄い豪邸に住んでいるんだろう」と思っていたのでしょう。しかし、現在の実家はかれこれ四半世紀前に建てられたものです。当時は一国一城どころか独立前の平社員でした。当然、豪邸なんぞ夢のまた夢です。近所の家と比較しても、何が凄いわけでもありません。

そりゃ、都会の一般的な住宅と比較したら面積の関係で「大きい家」程度には位置付けされるかもしれません。しかし、父の実家は私の実家よりもさらに田舎にあります。もっと広い土地が、もっと手ごろな価格で手に入ります。実際に父が招待された家の多くが、最近新しく建て替えたのかより広い土地により新しい住居だったそうです。で、それにも関わらずその方々は「あんたはもっといい家に住んでるんだろ」と言うそうで。謙遜とかそういうのではなく、本気でそう思っているようです。

原因はその近所にあった一軒の家のようでした。周囲の家々よりも一回り大きな家。周囲の家々よりもちょっと気合が入った家。きっちり整った庭があれば、立派な門もあります。イメージとしては、庭に子供用の白いブランコが置いてあるような感じ。あと、プラスチック製の乗り物のおもちゃ。そんな家が、「建設会社の社長さん」のお宅だそうで。「あそこの社長さんは立派な家」「私の父は建設会社の社長」「即ち、私の父は立派な家」という三段論法が成立していたようです。あーねー、そりゃねー、そういう例があるならねー。

最近実家近所のいざこざのせいで、改めて「建設会社の社長さんが一軒家を建てる」こととなりました。あ、いや、正確には「新しく事務所を建てて、そこに住居もくっつけて、社宅扱いにする」とかそういう事らしいんですけど、僕難しい事わかんないやえへへ。で、「まだ何も決まってないから、新居について希望があれば考慮する」と話を持ちかけられました。後から増築するよりは、最初から欲しい設備を備えておいたほうが安上がりだから、と。現在の実家も、システムキッチン一式を衝動買いしたから泥縄的に台所を拡張したり、二十一世紀になってようやく下水が届いたからその勢いで便所数が二倍になったり、風呂場が寒いからなんとかしようかとか準備段階であったりと、いろいろ物入りでした。その辺の反省も含め、改めて終の棲家を設計しよう、という事らしいです。

しかし、「考慮する」と言われても将来同居する予定があるわけでもなく、また地元に戻る予定もあと三十年くらいはないわけでして、そんな状態で希望と言われても困ります。実家の近所に住んでいるのならば二世帯住宅であれこれとか考える事もできますが、片道二時間の道のりです。たまにやって来て泊まる程度なんで、真剣に考える気はありません。就職する前なんかは「トイレは二つ欲しい」とか「洋式便座がいい」とか「暖房便座最高」とかいろいろ注文もあったのですが。全部便所か。

で、思いついたのが「風呂から泡を出したい」。こう、腰とか肩とかにぶわわわー、と。勿論ゆったりサイズの広さで。提案するだけしてみたのですが、「その手の風呂は二百万くらいする」の一言が返ってきたので取り下げました。想定よりも一桁多いんだもん。高いなあ、泡風呂。「熱帯魚用のエアポンプのおっきーの」くらいを想定してたんですが、人間様の使うものはもっと高性能であるという事なのでしょうか。しかし何故瞬時に相場が出るんだ。調べてたのか。

次に思いついたのが「庭に松が欲しい」。枝振りのいい松と、その根元に岩が二つくらいあればベストです。「しゃちょーさんのごうてい」というと、庭木に松が置いてあるイメージがあるのです。豪邸ではありませんが、事務所も兼ねるのだから庭にハッタリを利かせていい感じの松を置こう、そう提案したのですが。「松は管理が面倒」の一言で却下されました。風呂の件は「どうしても置きたいならまあ考えとく」くらいの反応だったのですが松に関しては「置きたいならお前きっちり管理しろ」ぐらいの勢いです。

物凄い勢いで却下された後、冒頭の話を聞きました。件の社長さんのお宅にも、ご立派な松があるそうで。やっぱすごいごーてーには松が欠かせないんだよ。みんなの期待を裏切らないためにも置こうよ、松。俺は管理しないけど。「庭に池と鯉。そして池に掛かる橋」は諦めたんだからさ。


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