小学生あたりだと、「机のこっちからは俺の陣地だ。入ってくるんじゃない」みたいな事を言いませんでしたか?私は言ってました。言った憶えはありませんが間違いなく言ったはずです。オッズがイーブンなら言った方に賭けます。それくらい自信をもって言えます。言ったところでなんの得にもなりゃしませんが。
で、このセリフ。机と机をくっ付けなきゃいけない決まりの中で、隣の席の奴がわざわざ自分の机の方に教科書やノートをはみ出して置いてくる。それにたまりかねて言い出す、という流れが多かったと思います。言われた相手もわざわざ消しゴム戦闘機で領空侵犯しながら「ここは空中でーす。陣地じゃありませーん」なんて挑発してみたり。もっとも、言った方も数日経てば忘れてたりするんですが。
先日、我が家の寝室でそんな会話が繰り広げられていました。『人間湯たんぽ』こと長男の取り扱いを巡って議論に。相方曰く、何故私の布団のなかにいる熱源を自分の布団に持ち込むのか。私の領地から勝手に持ち出さないで、だそうで。
その辺のやりとりから小学生くらいの記憶、つまり冒頭のやりとりが浮かんできました。小中学生時代の同級生だった相方とならば一度くらいはこんなやり取りを実際にやったかもしれませんが、どうにもそんな記憶はありません。それどころか、隣同士の席になったことすらあるのかどうなのか。そんな二人が結婚して子宝に恵まれてるわけですから世の中わからんものです。そんな感想はさておき、「俺の領地云々」の話が始まりました。
実際に当時こんな会話はしなかったような気はするけどなー。
「だって、小学校の頃ってどうでもいい同級生だったし。あっ、歯には興味はあったけどね」
ずがーん。
小学生当時の私の歯。ずばり、矯正治療中です。あのワイヤーみたいなのがぐるんぐるんと。私の場合軽度のものだったようで治療部位は口内だけでしたので、頭全体にまくような大掛かりな装置は使用しませんでした。
一見目立たないとはいえそれなりに大変です。特に、当時サッカー部だった関係上ボールを顔面で受けたりするとさあ大変。口内炎の嵐が吹き荒れます。みかんなんぞ食えたもんじゃありません。所詮他人事だった相方はそんな私の苦悩も知らず、たまに変化する矯正器具を見ては「あ、新型だ」とか思っていたとか。着けてる本人は新型だろうが旧型だろうが見えやしないんでどうでもいいんですが。
話はまだまだ続きます。
「あ、あとアソニットと四ツ山神社も」
ずがーん、ずがーん。
共に熊本県荒尾市内にある施設です。と言いますか、あえてその二ヶ所に言及するというのは、つまり小学三年生のときに行われた社会科の市内見学の事でありまして。楽しみにしていたのに前日見事に風邪をひいてしまった私は、それでも無理やり見学旅行に出かけました。しかし病み上がりだというのに無理をした結果、当日二番目の見学先であるアソニットの玄関前、そして昼食をとるために上っていた神社の階段でげろげろー、と。なんでまたわざわざそんな事を憶えてやがりますか。大変だったんだ俺は。
それだけ?
「それだけ」
なんと言いますか、それでよく成人式の時に俺に声をかけようと思ったな。
「だって小学校の頃から全然変わってなかったし」
ああ、それはつまり俺が童顔であると……
「違う。なんて言うか、長ひょろい顔のままだったから」
『長ひょろい』て、あんた。ずばりそのまんまだから何も言い返せませんがな。ああ、この程度じゃそんなにショックは受けませんよ。あまりにも見事な表現に笑ってしまいましたし。
それにしても、「矯正器具」と「ゲロ」か。嗚呼、湯たんぽよ、じゃなくて息子よ。お前はその二つがあったからこそこの世に生を受けてきたのだな。なんか、泣けてくるなんてものじゃないけど、強く生きろ。人間、笑われてナンボだ。笑われたからこそ、俺だって結婚できたんだぞ。