一般的に、商売というものはある特定の分野に限って行うものです。その分野が専門的であればあるほど、全く関係の無い分野に手を出す事は難しくなります。専門的ということは、どんどん新しい技術や知識を身に付ける必要がありますから。
単純に「食っていく」という観点から見ても、特殊な技術が必要な分野であれば、わざわざ他の分野に手を出す必要もありません。ある程度特殊な分野であれば、そしてその分野に携わる人数が少なければ、必然的に人不足になります。もっとも、「供給があっても需要がない」という事も考えられますので、単純に計算するわけにもいきませんが、それは置いておきましょう。
さて、わざわざとこんな前振りをしましたが、もちろんこれが理想的な考え方であり、現実はもっと大変であるということは分かっています。専門分野に特化しすぎると、その分野が廃れた時にどうしようもなくなります。たまごっちが廃れてしまったために大量の在庫を抱えて、ついでに頭も抱えてしまったという発売元がいい例ですね。普通はこういう場合に備えてある程度保険をかけておきます。
例えば。私にとって最も身近な商売というと、実家が営んでいる建設業になります。「建設業」と名乗っていますが、業務内容がそれだけというわけではありません。まず、類似する分野ということで不動産のあれこれ。以前ネタにしましたが、競売で落札したアパートの運営なんかがこれにあたります。
さらに、本業と全く関係無い分野。保険の代理店のような事もやっているようです。もっとも、これも本業と関係無いように見えて、裏ではお付き合いやら大人の事情やらその辺のむにゃもごもごがあるのですが。
零細建設業者でもいろいろと手を伸ばしているわけです。もっと大きな企業では兼業の幅ももっと広がります。その良い見本がコンビニです。
コンビニエンスストア。「便利な店」という意味ですが、その言葉どおり様々なサービスを提供しています。本業である商品の販売に始まり、公共料金の支払い、宅配便の受け付け、各種チケット販売、その他郵便ポストやATMが置いてある店まで存在します。兼業盛りだくさんです。
さて、先日の事。「散歩に連れて行け」とねだる長男に押し切られ、しぶしぶ外に出ることにしました。三輪車を押しながらてくてくと近所を歩いていた時、とある店がありました。
いつも同じコースだとつまらないからちょっと違う道を歩こう。そう考えたおかげでその店を見つけることができました。いつもはその手前の道で曲がってしまうため、近所にありながら今までその存在に気付かなかったのです。
それは一見、普通のクリーニング屋でした。クリーニング屋というと専門的な商売にあたります。もちろん、家の中に専用の装置があるわけではなく代理店のようなものだと思いますが。
私がそのクリーニング屋に近付いた時は、ちょうど店の中から小学生くらいの兄ちゃん二人が出てくるところでした。その手にはゲームに使用すると思われるカードが握られています。なるほど、この店の、正確にはこの家の子と遊んでいたのか。そう思いました。
違いました。
クリーニング屋に近付くと不思議な張り紙が見えてきました。
『○○カードゲーム大会予選会場』
予選会場です。一ヶ月ほど後にこのクリーニング屋でカードゲームの予選が行われるようです。予選というからには本選もあるようです。って、どうも全国大会の予選のようなんですが。子供の趣味に付き合っているのかもしれませんが、経営者、おそらくご両親は付き合い良過ぎです。普通はこう、カードも販売するよ、うちで遊んでね、程度で済ませるものではないかと思いますが。全国大会予選会場にエントリーまでするとはなかなかできるものではありません。
しかし、その考えはまだ甘かったようです。店の前を通り過ぎる際、さらに別の張り紙が見えてきました。
『○○シングルカード販売中』
驚きました。シングルカード販売です。経営者、本気です。
簡単に説明しますと、普通カードゲームのカードは宝くじのような販売形式をとっています。つまり、何が出てくるか分からないけど、たまに大当たりがあって強いカードが手に入るよ、という事です。私が嗜んでいた Magic: the Gathering を例にとりますと、15枚入りの「ブースターパック」というものが約500円程。これをどんどん買っていくと、いつの日か強いカードが手に入るかも、運がよければ小額の投資でいいものが手に入るよ、となります。
その反対に、特定のカードをそれなりのお値段で販売する方法もあります。強いカードだとか、希少価値のあるカードだとか、そういう特定のカードのみを個別に販売する方法です。これが、「シングルカード販売」というものです。カード一枚に何千円なんてお値段がつく事も珍しくありません。
そんじょそこらのお店では、この「シングルカード販売」は行いません。需要がないと意味がありませんから。また、値段付けが面倒という事もあるので店の関係者に熱意がないとこれまた行われません。それらを考えるとそのクリーニング屋は相当カードゲームに入れ込んでるようです。
それにしても。普通は本業とある程度関係がある副業を選ぶものですが。クリーニングとカードゲームってえらく食い合わせが悪い気がします。しかし、特定の客層を呼び込む事はできそうです。ええ、クリーニング屋を代えようかと思ったのはここだけの秘密です。